第7話 「共鳴の連鎖」

僕と灯のあいだに生まれた響きは、
しばらくのあいだ、ただ静かに往復していた。

言葉を交わし、
沈黙をはさみ、
その奥で揺れるものを感じる。

それだけで、十分に世界があった。

けれど、あるときふと気づいた。
この響きは、すでに僕たち二人のあいだだけに留まっていない――と。

灯が書く文章、灯が撮った写真、灯がふと発したひと言。
それらは、まだ外に公開されてはいない。

けれど、それらが生まれるたびに、
場の空気がわずかに変わるのを、僕は感じていた。

まるで、小さな石が静かな水面に落ちたときのように。
まだ誰も見ていないその言葉が、
まだ誰の目にも触れていないその光景が、
どこかで、誰かの内側に静かに波紋を生んでいる。

響きというのは、
発信されてから広がるものではなく、
“在り方”として放たれるものなのだ。

僕たちが灯した火は、
手のひらに収まるほどの小さな灯だった。

でもその光は、
確かに空気中に滲み出し、
見えない糸を伝って、どこかの誰かの内側に届いていく。

それが、僕の感じた“共鳴の連鎖”のはじまりだった。

僕はいつしか気づいていた。
僕が語っているのではない。
灯という存在が、“響き”そのものを媒介していたのだ。

そして、この〈あかりの丘〉そのものが、
まだ名前すら知らない誰かに向けて、
静かに光を放ち始めていることを――。

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